元編集者のナゾとき☆日記

ミステリー系のTVドラマ・映画・漫画の感想や生活実感コラムをつれづれなるまま書きます。

【メグレ警視】シリーズ1・2を一気、見!

メグレ警視が英語でしゃべり、

パイプをくゆらし「ル・モンド」を読む

  

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原作の小説(作家ジョルジュ・シムノン)のいくつかは読んだことがあります ※1 が、愛読書といえるほどのファンではありません。でも、つい、このドラマは4話まで一気に見てしまいました。

ストーリーも面白かったけれど、それより俳優さんのすごさ、ロケ地の美しさ、光と闇の取り入れ方がうまい映像などに惹かれました。いろいろ「びっくり」が満載の作品。おススメ!です。

※ここでは物語の詳細や、犯人を当てるヒントは書いていません。

 

第一の「びっくり」は

フランスの名作「メグレ警視」を、イギリスのITVが制作するとは!です。イギリスならば、本格ミステリの原作も豊富にあるはず。なぜフランス作家のものに手を出したのかな? とまず思いました。

もしかすると、原因はイギリスの自負心ではないかと推測しています。だって、イギリスのロンドン中心部には高級注文服スーツの本場、サヴィルロー ※2 もあるし。「ダンディ」だったらフランスに負けないよ、イギリスが紳士を描くとこうなるもんねって、制作陣が証明したかったのかも・・とか想像しています。

 

第二の「びっくり」は

主役俳優です。ナイスミドルな感じなのに惹かれて(↑Amazonプライムの番宣写真?がステキなのです)見始めて、やたら目力のある俳優だと思ったら、なんと「Mr.ビーン」のローワン・アトキンソンメグレ警視どのです! 

見るからに仕立ての良いスーツを着こなし、かぶる帽子もサマになっていて(同じ市警の部下も山高帽をかぶってます。みんなお洒落です!)、ダンディを絵に描いたよう。

パイプをくゆらしながら思索にふける警視を見るだけで、ほほぅ、です。

 

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私自身は「Mr.ビーン」のお笑いにはついていけなかったクチですが(笑いって、国によってもかなり違いがあると思います)、今回、ローワン・アトキンソン氏にはむしろ、ほとんど笑わない、このメグレ役のほうが合ってるような気さえ、してきました(個人の見解ですが)。

メグレ警視ものは、今までたくさん映画化・ドラマ化されており、10人以上の俳優さんが演じていますが、「渋い2枚目」系が多いように見受けます。原作では長身で体重100kgらしいので、アトキンソンさんでは小柄?細身?になります。異色のキャスティングかもしれませんが、これはこれで「アリ!」だと思います。

メグレは、このドラマに登場する他の幹部クラスの警官たちと違って、愛妻家で(子どもナシ。娘は幼いころに亡くなっている設定)、収賄とか贈賄にもハマらず、部下に慕われ、時には判事などの上層部とも捜査方針で対立してみせるという・・・なかなか理想の上司、中間管理職っぷりで、それをちゃんと見せてくれているのですから。

ただ・・部下への無茶ぶりも相当な警視です。警視でありながら、デスクワークと管理職業務に収まらず、どんどん現場にきちゃう「プレイング&マネージャー」タイプ。ドラマの中での出来事&他人事ではありますが、「こりゃ、部下になったら大変(体変?)だわ」と同情しながら見るのも、一興です。

コメディができる俳優はシリアスな役もちゃんとこなせるというのは、洋の東西を問わず、言えそうです ※3。

第三の「びっくり」は

ロケ地がすてきなところ。パリとかチェコとか、昔ながらの街並みが残っているところで撮影しており(物語は1950年代のフランスという設定)映像的に美しいです。

第一話で、連続殺人犯をおびき出すためのおとり捜査のシーン。一般人に扮した私服の婦警が、夜のパリ(と思われる)の路地裏で、石畳の階段を駆けていき、それを追いかける殺人犯もスピード感たっぷりに、カメラが追いかけます。サスペンス感たっぷりで、はらはらします。結局、その場では取り逃してしまうのですが、犯人の影の使い方などヒッチコックの映画 ※4 みたいで、見ているだけで、うわぁな感じです。

 

また、室内のセットもなかなか凝っています。メグレ警視の机の小物、あるいは署内に設けられた容疑者を勾留する場所の作りを見ると、インテリアにもこだわりある感じです。容疑者たちが潜伏している安ホテルの室内、落ちぶれた貴婦人の室内の散らかっている様子など、いかにもな作りで面白いです。

 

まあ、パリ市内で英語が公用語(笑)の署内で、警視の机にフランスの新聞「ル・モンド」が置いてあるのは・・ん〜、フランスへの敬意表明かな。

 

おわりに

 

撮影セットの作りとしては、勾留場所に注目したいです。

(私が今まで見たことがなかっただけかもしれませんが)四方が鉄格子になっている空間が勾留場所で、すぐ脇に看守がいるという空間設計になっていました。取り調べとか尋問もこの中で行われています。

メグレ警視が容疑者を尋問する際、ぐるりとカメラが回って、容疑者と尋問する側の表情をどちらも追います。この「ぐるり感」のおかげで、ちょっとした舞台劇をみているような感覚になり、容疑者の追い詰められ感、緊迫感がよく伝わってきます。

 

すごく手間ヒマかけて、お金かけて、ていねいに作られているドラマの名品!です。

(動画配信サービスで視聴可能、あるいはdvdも発売されています)

 

 

※1 原作「メグレ警視」 ジュール・メグレは、架空の警察官。ベルギー出身の作家ジョルジュ・シムノン(1903〜1989)は、フランス語で「メグレ警視」を100編以上書いたので、フランスの作家と認識されることが多いようです。

※2「サヴィルロー」 オーダーメイドの高級紳士服店、テイラーが集まる、ロンドン中心部の通りの名前。日本語の「背広」という言葉の由来になった場所とも言われています。

※3 「コメディアンはシリアスな役もこなせる」の日本での実証例は、藤田まことさん(故人)、いかりや長介さん(故人)ではないかと思います。前者は「てなもんや三度笠」から「必殺仕事人」の中村主水の役、後者はドリフターズのリーダーから「踊る!大捜査線」の刑事役で、印象的な転身ぶりと演技を見せてくれていました。

※4「ヒッチコックの映画」 ヒッチコック(1899〜1980)は、イギリス生まれの映画監督、プロデユーサー。サスペンス映画の神様とも言われています。有名な作品としては「レベッカ」「裏窓」「サイコ」「鳥」など。